対馬全カタログ「特産品」
観光  食  特産品  歴史  社寺  生き物
村落  民俗・暮らし  アウトドア  キーワード
2021年2月14日更新
対馬天然塩
【つしまてんねんえん】
i
山の多い対馬だから藻が育ち
海水のミネラル分が多く
塩が美味しくなる、らしい
かつて主要産業だった「製塩」
 対馬の中世を知るうえで欠かせない朝鮮の書『海東諸国紀』に、「土痩せ、民貧しく、煮塩・捕魚・販売をもって生をなす」とあるように、昔から製塩は対馬にとって欠かせない産業だった。
 5世紀頃から平安時代(1100年頃)までは、乾燥したホンダワラなどの海藻の表面の塩分を土器にくりかえし洗い出して、あるいは焼いた海藻の灰を海水に溶かして布で濾過して鹹水をつくり、火で焚いて濃縮する方法が用いられていたと推定されている。
 対馬では古くから「塩焚き」と言われ、釜で海水を焚き上げて塩を得たり、塩田で塩分濃度の高め、それを煮て塩を得たりした。中世では重要な交易品でもあり、島主から家臣への給分として田畑の代わりに塩竃や塩田が使われるほど、製塩は重要視されていた。
 しかし、江戸時代になると、交易品の中から塩が消える。おそらく瀬戸内などの大量生産による塩が廉価で流通したからではないだろうか。
天然塩と精製塩と再製加工塩
 精製塩とは、「食卓塩」「食塩」として売られている塩で、海水を電気分解(化学反応)することによって作られる。それ以外の塩を、自然塩とか天然塩と呼び、自然塩と天然塩は呼び方の違いだけだ。但し、どちらも商品表示としては使っていけないことになっている。
 その他に、再製加工塩、あるいは再製自然塩と呼ばれる、精製塩に塩化マグネシウムなどを添加した塩もある。
 以下、ここで紹介する対馬の塩は製法の差はあるものの、すべて天然塩だ。商品表示ではないので、ここでは「天然塩」という呼称を使用する。現在対馬では3つの会社が天然塩をつくっているが、ここでは小規模の会社から紹介したい。
火を使わず乾燥だけで結晶化「玄海の塩」
 「玄海の塩」の製法は、現代版流下式塩田ともいえるもので、希少な「天日塩」だ。くみ上げた海水を、逆浸透膜を利用した1次濃縮装置を通し、次はネットを利用した流下式の2次濃縮装置で、風と太陽光で水分を蒸発させて塩分濃度を高めていく。2次濃縮の工程を繰り返して、6倍強濃度の塩水(鹹水)をつくり、今度はそれを温室で自然乾燥させる。製塩工程で高温加熱をすることはない。
 天候に左右され、生産も安定せず、時間もかかるし、生産量も少ない。その分コストもかかる。しかし、この塩でなければ、と買い求めてくる味噌や醤油造りの老舗、会員制の顧客などの期待に応えるために、このスタイルの製塩にこだわっている。
流下式の2次濃縮装置
「玄海の塩」は赤島の海水の季節の味わい
 このこだわりの塩づくりを始めた橋本氏は福岡出身で、1999年に対馬に移住した。赤島の海水がきれいで、そのくせプランクトンが豊富で藻の生育がよく、ミネラル分が多い。それが赤島を選んだ理由とのことだった。
 橋本氏によると「季節によって塩の味も変わる」そうだ。「春先は甘いし、冬は苦い。特に梅雨の時期の塩は、年間を通して一番まろやかで、味がいい」とのことだ。
 この塩の食リポだが、「甘味と旨味が強く、とても食べやすい」「塩だけ舐めてお酒のアテにできる」「塩というか飴のような感覚もある」「白身魚や魚介類の刺身に直接使ってもとてもおいしい」「粒が荒いので好みですりつぶして料理に合わせられる」等々。
 「玄海の塩」はネット通販でも購入することができる。少々高価だが、リピーターも着実に増えているそうだ。
温室内で自然乾燥
対馬の塩屋「森本商店」の「ひじき藻塩」
 赤島と沖島の間の小瀬戸の沖島側に製塩所がある。ここでは対馬の手作り塩として有名になった塩をつくっている。対馬の名産品として、ふるさと納税の返礼品にも選ばれている「ひじき藻塩」だ。返礼品の説明には次のように書かれている。
 「対馬の中でも特に美しく、透明度の高い場所の海水を汲み上げて、海水と対馬で作られたひじきを一緒に炊き込み、職人が30時間かけて手作業で仕上げた天然塩です」と。
 この「ひじき藻塩」を商品化し販売している「森友商店」は、明治27年創業。対馬市厳原町にある。開業当時は専売品(酒・コメ・タバコ・塩)を中心に販売していたそうだ。
「ひじき藻塩」はミネラル分たっぷり
 「ひじき藻塩」を実際に作っているのは、対馬市美津島鴨居瀬の権藤光男氏。この「ひじき藻塩」を作るために、自宅を海水の汲み上げやすい海辺に引っ越したそうだ。
 使用する海水も、濁りのない日を選び、汲み上げる時間も早朝のみという。海藻は、主材料の“ひじき”と“ホンダワラ”といわれる2種類を使用。海水と海藻を一緒に炊き込み、30時間かけて手作業で仕上げることで、海藻のミネラルをタップリと含んだ“藻塩”が完成する。
 「ひじき藻塩」はミネラル分を多く含んでいるため、吸い物の出汁のような旨味を持っているという。また、魚や肉などに振り塩した際の浸透度が高く食材の旨味を引き出すそうだ。特に“浅漬け”や“藻塩おにぎり”などに最低らしい。
海水をくみ上げている小瀬戸
東京資本による対馬特産品「浜御塩」
 スーパーでも見かける機会が増えている「浜御塩(はまみしお)」だが、対馬産でありながら、製造会社は株式会社 白松という、名古屋創業、東京本社の塩メーカーだ。その塩メーカーが対馬の海水にほれ込んで作ったのが「浜御塩」だ。
 浜御塩工房の設備は大掛かりだが、製法は、逆浸透膜を利用した濃縮装置と、天日と風のエネルギーを利用したネット噴霧式の濃縮設備で塩分濃度を高め、最後は平釜で炊き上げるというもの。つまり、天然塩だ。平釜の燃料に間伐材のチップを使うなど環境にも配慮しているという。
 工房は竹敷地区にあり浅茅湾内の深浦に立地しているが、海水は対馬海流の流れの速い外海に面する久須保地区で取水している。
 商品は、プレーンな「浜御塩」をはじめ、「浜御塩藻塩」「浜御塩焼塩」「浜御塩セルドフレーク」「塩御塩えこそると」「つしまやまねこ お塩&焼塩」など、特徴のある塩を多数、製造販売している。
 “対馬の天然塩を手ごろな価格で”というのが「浜御塩」だ。
浜御塩工房 竹敷
Ⓒ対馬全カタログ