「芳秀堂」を訪ね、製硯作業を取材した。
まず石の形を見て、墨堂、墨池の位置と形状を決めるところからはじまる。型紙を作成し、その形状を石に写すと、大まかなデザインをイメージしながら 硯縁を削り出していく。その際は、その石の個性を生かしながら、自然の趣を感じられるよう、大胆に削っていくのが2代目芳秀流。長年培ってきた美意識と読みと技が生きる。
次に、用途に応じて刃先の違うのノミを持ち替えながら、墨堂、墨池を削り、磨き、さらに硯背部を平らにととの、その後に硯にとってもっとも重要な墨を擦る面・墨堂を仕上げる。
墨堂を磨くために、荒砥、中砥、仕上げ砥と3段階の砥石を使うが、最も重要な仕上げ砥に対馬の浅茅湾で採れる対馬砥石を使用。さらに、原石の硬軟と砥石の硬軟の相性を見極めながら、硯の命ともいえる鋒鋩(ほうぼう:硯の表面にある微細な凹凸のこと。 墨を磨る際にやすりの役割を果たす)の立ち具合を確かめながら磨き上げる。
その後、縁の角落としや仕上げ磨きを布製サンドペーパーで行い、最後に漆を指に付け、場所に応じて塗り分け、仕上げていく。石の個性を生かしながら、一品ごとに手彫りしているため、硯の色・形・サイズは世界に一つだけだ。