対馬全カタログ「特産品」
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2022年5月17日更新
賀佐ゴボウ
【かさごぼう】
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伝統の「賀佐ゴボウ」の
復活を成し遂げた
定年者のチャレンジ精神
「多田のしゃくなに賀佐ごぼう」とは・・
 いつの頃からかは明確ではないが、おそらく江戸時代前期には賀佐はゴボウの生産地として知られていたと考えられる。その根拠として「多田のしゃくなに賀佐ごぼう」という初物献上の名産を謳うフレーズが存在したらしく(『対馬風土記 第5号 』P23参照)、さらに「しゃくな(杓子菜のことだろうか)」を献上した多田という村は正徳年間(1711~1716)に廃村になったことから、それ以前に「賀佐ゴボウ」も知られていたと考えられるからだ。
 「賀佐と言えば、賀佐ゴボウ」「ゴボウと言えば、賀佐」と、今も「賀佐ゴボウ」は島内ブランド産品として健在だが、なんと300年以上の歴史があることになる。
「賀佐といえば、賀佐ゴボウ」の復活
 ゴボウは地中深く縦に伸びる。だから収穫するときは深く掘らなければならない。さらにゴボウならではの連作障害もあり、他の作物と違ってたいへんな重労働を強いる。だからこそ他の村ではあまり栽培されなかったが、賀佐の人々は生きるためにゴボウを選び、その栽培のしんどさに耐え、暮らしを支えた。
 現在ただ一軒のゴボウ出荷農家であり、その復活を成し遂げた日高安実氏は、「だから、賀佐の人間は辛抱強い」と語るが、やはり栽培のしんどさ故に、「賀佐ゴボウ」はしばらく対馬の食卓から姿を消していたということだろうか。
復活の決め手は、機械化
 日高氏は定年退職後、かねてからの計画通り“賀佐ゴボウの復活”に取り組んだ。ただしゴボウ掘りは機械化し、バックホー(ショベルカー)を活用。ホー(鍬)をゴボウの列の中間に置き、60cmほど垂直に入れる。ゴボウを傷つけないように掘り起し、その後、手で1本1本収穫するのだ。
 収穫し選別された「賀佐ゴボウ」は、対馬市の学校給食にも供給され、地産地消の食育食材として対馬の子供たちの健康を支えている。また、厳原町中村のJAふれあい市潮菜館厳原店、同じく美津島町鶏知のJ潮菜館みつしま店で直売品として求めることができる。
 島外での販売は行われていないが、福岡の老舗割烹が、おせち料理用の食材として採用し、お取り寄せで各家庭の正月の食卓に載る。
ホー(鍬)を垂直に入れて土を掘り起こす
連作障害対策は、サトイモ・ジャガイモ栽培
 ゴボウは連作障害が起きやすい野菜としても知られている。連作障害は同じ種類の植物を同じ場所に植え続けた時に起こる現象で、土壌環境が偏ることが原因だ。
  その対策として、畑のローテーションを行う「輪作」が一般的だが、ゴボウは同じ場所での栽培は4〜5年あけた方がいいと言われる。つまり、1年ゴボウを栽培したら、次の年は別の畑で、また次の年は別の畑で、となってくる。その間、収穫後の畑では他の野菜を植えたり、土壌回復作業を行ったりする。
 ゴボウの輪作作物としては、トウモロコシなどのイネ科作物やキャベツ、ネギ、オカボ、ラッカセイ、サツマイモ、緑肥などがあるらしいが、賀佐ではサトイモ、ジャガイモなどの野菜を栽培したり、牧草を植えたりしている。
日本ならではの食用ゴボウ、世界へ
 ゴボウはキク科ゴボウ属に分類される多年草。ユーラシア大陸北部が原産と言われているが、縄文から平安時代にかけて漢方薬として中国大陸から日本に伝来したそうだ。平安時代にはすでに栽培されていたという記録もあるらしい。食用に用いられるようになったのは江戸時代からで、品種改良もその頃から行われるようになった。
 漢方薬としては主に解毒や咽頭痛の薬として使われており、水溶性・不溶性の食物繊維が豊富で整腸効果があると言われている。西洋では薬用ハーブとして珍重され、「バードッグ」という名前のハーブティー(つまり「ゴボウ茶」)として販売されている。
 ゴボウの根を食しているのは、世界でも日本だけだそうだ。第二次世界大戦中、直江津捕虜収容所で食事にゴボウをおかずとして出したが、後にそれが「木の根」を食べさせようとしたと、捕虜虐待例の一つとして主張されたのは有名なエピソード。現在は海外でも日本食のブームとともに「きんぴらごぼう」なども見直され、ゴボウの美味しさも発見されつつあるようだ。
賀佐ゴボウを復活し、次代に引き継ぐ
 100年以上の伝統を誇る「賀佐ゴボウ」を復活させ、次代に残そうと頑張っている日高安実氏。しばらく前までは賀佐の各家で細々と栽培していたゴボウだったが、彼により小規模ながら量産体制が生まれ、島内はもとより九州・福岡まで販路を拡大することができた。
現在は、他家の耕作放棄地も耕し、ゴボウ栽培に欠かせない輪作ローテーションを行いながら、さらにニンニク栽培にも取り組んでいる。驚くことに、今、賀佐には耕作放棄地がない。
太いゴボウもあれば細いゴボウも
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