対馬全カタログ「食」
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2021年2月28日更新
対州そば
【たいしゅうそば】
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そば好きなら、いつかは食べたい
対馬在来種「対州そば」
昔ながらのそばの味
 そばならではの香りや風味に優れ、ほのかな苦み、強いコシを持つ対馬在来種そば、「対州そば」。そばの原種に近い特徴が備わっていると言われ、対馬だけでなく全国のそば愛好家に、“食べにいくべきそば”の一つとして広く知られている。
 近年の研究で、そばは中国南部からヒマラヤ周辺がルーツという説が有力だそうだ。日本では縄文時代草創期の高知県の遺跡でそばの花粉と種子が発見されており、9300年前にはすでに日本に伝来していたとされている。北海道でも5000年前のそばの花粉が出ているそうだ。また、 縄文後期の青森県の亀ヶ岡石器時代遺跡では花粉の分析により、そば栽培が行われていたことは明らかと言われている。
 対馬で最も古い越高遺跡が7000年前くらいとされているので、日本のそばの本流が対馬経由かどうかは甚だ疑問だが、対馬のそば「対州そば」は、対馬に伝わってきた当時のそば、昔ながらのそばを維持していると言われている。
「対州そば」が原種に近い理由
 そばがいつ頃対馬に上陸したかは定かではないが、多く流布している情報では縄文後期と言われている。縄文後期とは、 約4000~3000年前。いずれにしろかなり昔のことであることは容易に想像できる。
 そばは花が開き実がなるまでの期間が短く、痩せた土地や厳しい気候でも安定的に収穫できる。平地の少ない対馬には最適な穀物だった。他地域の品種と交配しやすいという特性があるが、離島という隔絶された環境が幸いし、大陸の原種に近い在来種としての特徴を長く維持することができたと考えられている。
対馬在来種「対州そば」畑
「対州そば」の危機、そして復活
 一時、 島外から収穫量の多い、粒の大きな品種のそばが持ち込まれた。それによって対馬のそばの美点を失いかけたが、6年にわたる島内生産者と行政、JAなどによる「対州そば」純系化プロジェクトによって、本来の対馬のそば=「対州そば」が復活。
 2006年(平成18年)には対馬で収穫されるそばは、100%「対州そば」に切り替わったそうだ。本土のそばとは一線を画した、日本で一番原種に近いそば=「対州そば」が、また島内で広く栽培されるようになった。
 ある時期、対馬のそばが美味しくなくなった、と感じた帰省者は多かったようだ。在来種である「対州そば」が復活し、商品として店舗で提供できるようになった頃だった。
「対州そば」が美味しい理由
 その復活劇の中心となった対州そば振興協議会が、「対州そば」のおいしさを科学的に解明することを目的に、長崎県の農林技術開発センターに味覚調査を依頼したところ、注目すべきデータが明らかになった。
 味覚センサーで他県産のそばと比較した結果、苦味コク値が9.19、苦味値が1.71となり、他県産の数値を大きく上回った。旨味、旨味コクでも上回ったが、特に対州そばの味の特徴が、「苦み」や「苦みコク」にあることがわかった。これが甘めのダシと合わせることにより、独特の味わいを生み出すことの原因だった。また生そばでいただく時の、「対州そば」ならではの風味の正体と言えるのではないだろうか。
味覚センサーによる味覚の評価(C県産を基準とした、そばがきの味覚評価)
 なお、そばの在来種としては、鹿児島県の鹿屋在来種、大分県の波野在来種、長野県の戸隠在来種などがあり、最近そば文化として在来種志向が高まってきている。
ついにGI登録!長崎県初!そば初!
 2018年4月に、地域ならではの農林水産物や食品のブランドを守る国の「地理的表示(GI)保護制度」に「対州そば」が登録された。長崎県初であり、そばにおいても初めての登録となった。(現在では、在来種そばで、滋賀県の「伊吹そば」、島根県の「三瓶そば」も登録されている)
 これにより、名物としての「対州そば」の知名度アップ、観光資源としての価値の向上、全国への販路拡大などが期待されており、徐々にだが「対州そば」の賞味を目的にした観光客も増えてきている。
天候に影響されやすい、そばの味
 交雑していない在来種のそばは、小粒で収穫量も少なく、天候や病害にも左右されやすく、安定的な供給が難しいという。対州そばも同様で、毎年同じように食べられるという保証はない。
 例えば2020年は、対馬は台風9号と台風10号という「50年に一度の台風」に立て続けに2度も襲われ、「対州そば」もかなりの被害を被った。そういう時は、「対州そば」を看板にしている店でも九州のそばを仕入れ、「対州そば」とブレンドして出すそうだ。
 天候に恵まれなかった年やその翌年は、飲食店のメニューに「対州そば」と書かれていても、実は“ブレンドそば”ということはある。それは致し方ないことであり、覚悟しておきたい。気になる場合は、店の人に尋ねてみよう。
栽培している農家に泊まるという選択肢も
 対馬では冠婚葬祭などの折に、食事にそばを出す家が多く、いまでも自家で栽培した「対州そば」を自家で打つ農家が結構残っている。そんな農家でそば打ち体験ができて、そのそばが食べられ、宿泊もできるという農家民泊がある。
 厳原町久根田舎地区の農家民泊『山里の宿 田舎屋さいとう』では、自分の畑で栽培し収穫したそばの実を引いてそば粉をつくり、それを宿泊客の人数に応じて打ち、その日の夕食に出してくれる。ブレンドは行わない正真正銘の「対州そば」だ。おそらく観光客が「対州そば」を食べたいのであれば、最も確実な選択肢の一つではないだろうか。
 『山里の宿 田舎屋さいとう』への宿泊予約は、対馬グリーン・ブルーツーリズム協会へ。電話番号は、0920-85-1755だ。
久根田舎地区のそば畑
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