対馬全カタログ「観光」
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2022年1月29日更新
豊砲台跡
【とよほうだいあと】
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当時世界最大級のカノン砲が
配備された豊砲台。
“要塞島 対馬”を今に伝える
対馬要塞の主砲として海峡を守護
 対馬に初めて砲台が建設されたのは1887年(明治20年)、日清戦争前だが、その後、日露戦争時には14の砲台が浅茅湾周辺に建設され、主に軍の施設や港湾を守った。
 第1次世界大戦の頃になると古い砲台は能力不足、時代遅れとなり、大正時代後期から新たに13の砲台が対馬全島に配備され、巨大な戦艦「対馬要塞」として、対馬海峡、朝鮮海峡ににらみを利かした。
 その中で、対馬本島最北に位置し、最も重要かつ最大の砲台が豊砲台だった
巡洋戦艦「赤城」の40センチカノン砲を転用
 豊砲台は、日本海と対馬海峡、朝鮮海峡の制海権を確実なものにするために、1929年(昭和4年)に着工。5年もの歳月を費やし、1934年(昭和9年)3月に完成した(陸軍資料によると、1930年工事着手/1932年完工とある)。
 第1次世界大戦後、1922年(大正11年)の世界軍縮会議で締結されたワシントン海軍軍縮条約に従い、日本も多くの戦艦を廃艦としたが、その戦艦の主砲を要塞砲に転用した。海軍が陸軍に協力した一大プロジェクトだ。陸軍資料によると、豊砲台には、建造中だった巡洋戦艦「赤城」を空母に改造するために不要となる2番砲塔が据え付けられた。それが当時は世界最大といわれた2連式40センチカノン砲だ。
 単独で朝鮮海峡、対馬海峡をカバーすることはできないが、同タイプのカノン砲が配備された朝鮮半島釜山近くの張子嶝砲台、壱岐の大崎砲台、さらに対馬要塞の他の12砲台とともに海峡の防備に当たった。
内部説明イラスト
破壊力抜群の長大砲は鈍重でもあった
 カノン砲の特徴は、山なりの弾道を描く迫撃砲に比べ、水平に近い弾道(低伸弾道)で弾丸を撃ち出すことができることである。そのために発射薬はより強力で、弾丸は高初速で発射される。
 威力、射程距離(射程距離30.3キロ)は他の砲に比べて大きいが、その反面、砲重量が大きく砲身も長くなり、動作が鈍重になる(旋回体重量674t、砲身長18.84m、砲身重量102t)。その重い砲を海から海抜40メートルの高台に揚げるために巻揚機まで新たに設計製造し、3箇所の砲台に設置した。
 その後、棹崎砲台、豆酘砲台にも40センチカノン砲が設置される予定だったが、戦力として脅威を増してきた潜水艦に対応するために、より速く照準を移動できる15センチカノン砲が据え付けられた。
分厚い壁は攻撃と発砲の衝撃に耐えるため
 上空からの攻撃に備えるように、豊砲台は施設のほとんどが地下に設けられ、地下室の天井や壁は厚さ爆撃に耐えられるよう2m超の鉄筋コンクリート造。砲塔部は発砲の衝撃に耐えるために3m超の擁壁で保護されているそうだ。
 時々試射は行われたようで、設置してから約10年間で(昭和18年4月までに)50発の砲弾が撃たれたことになっている。壱岐の黒崎砲台の記録には、試験射撃の日は事前に近くの村に知らせ、妊婦や老人、漁船等を驚かせないように配慮したとある。同じようなことが豊砲台でも行われていたに違いない。
 大砲としての耐久性=寿命は、40センチカノン砲の場合、1門で300発と想定され、豊砲台には2門合わせて600発の備蓄が理想だったが、十分な弾丸数は供給されていなかったようだ。
砲塔部通路:右側の空間が砲塔井。壁の厚さ2m
強力な抑止力で日本海沿岸を守る
 巨砲を操るには多くの人員が必要だ。砲小隊60名、弾薬小隊40名、機関小隊40名、観測小隊60名と、炊事要員、技術専門家などが起居をともにしていたという。設置されてから11年半、常に実戦に備えていたが、彼らがその日を迎えることはなかった。
 確かに豊砲台は「撃たずの砲台」ではあったが、その威力は世界に知られ、大戦時に日本海側の都市への艦砲射撃による被害がなかったのは、豊砲台を主砲とする対馬要塞の抑止力が大きかったため、と言われている。
 終戦後、米軍により撤収・解体作業が行われ、砲身は二分され八幡製鉄所で溶かされ、戦後復興の資材として活用されたそうだ。
砲台内見取図
当時を彷彿とさせながらも廃墟感漂う構内
 見学はまず入口左側の照明スイッチを押してから入る。一部破壊された通路、動力機室や砲具庫の入口の向こうに、外光が入っている空間がある。かつて砲塔が設置してあった砲塔井だ。そこから砲塔口を見上げると、周囲から木々がのぞき込んでいる。
 出口横にある散策路を上がると、砲塔口まで行くことができる。周囲を金網で囲ってあるので落ちることはないが、のぞき込むとその巨大さを実感することができる。
砲台入口の照明スイッチを押すとライトが30分間点灯し、砲座・砲具庫・巻揚機室などの内部をゆっくり観察できる
入口から入ってすぐの通路
砲塔井の底から見上げる
砲を転回、砲身を上下させるためのエンジン等が置かれた砲動力機室
40センチカノン砲の巨大さが伝わってくる砲塔口
※参考文献: 佐山二郎著『日本陸軍の火砲 要塞砲』
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