イチョウは揚子江南部が原産で、中国で広く知られるようになったのが11世紀以降。出世や栄達のシンボルとして富裕層に人気で、仏教寺院などにも多く植えられたそうだ。
日本への伝来期を特定する材料としては、1323年(至治3年)に中国から博多に向かい沈没した貿易船の遺物の中にイチョウが発見されたことが有力だ。この頃に日本に伝来したと考えられ、50年ほど下った南北朝時代の書物にイチョウが登場してくるのも辻褄があう。その後、室町時代前期から中期にかけて、寺社を中心に日本全国に普及したと考えられている。琴のイチョウも、長松寺があったから植えられたと考えた方がよさようだ。
とすると、長松寺がいつ建立されたかは明確ではないが、島府が琴に近い志多賀や佐賀にあった、宗貞茂、貞盛、義職の時代(1398~1468年)ではないだろうか。琴にイチョウが植えられたのは1400年代のいつか、というのが適当ではないだろうか。
いずれにしても、この巨木の前でさまざまな歴史が、人々の営みが展開されてきた。琴の大イチョウを眺めながら、この木の記憶をたどってみるというのも、この木ならではの観賞法だ。