2021年4月1日更新
全写真:國分英俊氏
オウゴンオニユリ
【ユリ科・ユリ属】
世界で対馬だけに出現した
黄色いオニユリは
愛されて、今や人気は全国区
オニユリの変種として誕生
対馬のオニユリの4分の3は2倍体で、種子をつくり、交配によって繁殖することができる。2種類の染色体が出会うことによって、たまに突然変異が起こる可能性があり、その突然変異の結果の一つがオウゴンオニユリだ。
文献に初めて登場したのが1922年(大正11年)、『植物研究雑誌』で報告されたのが1933年(昭和8年)と、ほぼ100年前に研究者たちに知られるようになった。
おそらくそれ以前、江戸時代などにも発生していたのではないかと考えられている。
ハクウンキスゲに混じって咲くオウゴンオニユリ
「黄花」ではなく「黄金」と命名
オウゴンオニユリは、毎年花が楽しめる多年草で、種を植えてから4年で、ムカゴを植えてから3年で花が咲くという。開花期はオニユリと同様、7月~8月。高さは1m~2mと大型だ。
花色は淡い黄色で、「黄金」の名からイメージするきらびやかさはない。花弁は強く反り返り、黄地に赤褐色の斑点がある。そして、葉の付け根にはムカゴを作る。
学名は、 Lilium lancifolium Thunberg var. flaviflorum Makino。var.は「変種」の意味で、flaviflorumは「黄色い」を表しているようだ。似た学名に“Lilium callosum var. flaviflorum”があり、こちらは「キバナノヒメユリ(黄花野姫百合)」のことで、沖縄地方の在来種だ。
flaviflorumを「黄花」とせず「黄金」と命名したのは、学名の命名者でもある牧野富太郎氏だが、かつて金を産出したことがあるとされる対馬にちなんでのことだろうか。それとも、彼には黄金の如く輝いて見えたからだろうか。
発生地は、女連(うなつら)と、泉
オウゴンオニユリは、世界中で対馬だけに誕生した花だが、百数十年前に女連で発見され、その後も数回対馬で発生しているそうだ。
女連で発見された品種は、その後女連の住民によって大切に育てられ、繁殖が進められ、今では公共施設や個人の愛好者の庭で見ることができる。
また、1963年(昭和38年)頃には上対馬町泉地区でも発見された。こちらのオウゴンオニユリは女連産にくらべ花弁の斑点が小さいそうだ。
なかなかお目にかかれないオウゴンオニユリだが、観光客が確実に見られるのは対馬やまねこ空港だ。開花期になれば、保護用の金網の中でしっかり咲いている姿を目にすることができる。
発見および当初の保護活動の経緯は、対馬野生生物保護センターのニュースレター『とらやまの森』第11号(2001年1月発行)に掲載されている、当時上対馬町立豊小中学校の校長を務められていた國分英俊氏寄稿文「オウゴンオニユリについて」に詳しく述べられている
上対馬町泉産オウゴンオニユリ
ガーデニング用図鑑では「入手しやすい」品種
絶滅が危ぶまれているオウゴンオニユリだが、それは種としての衰退を回避するために、野生種に近い段階のものを守ろうとするから。単純にガーデニング用の植物として楽しむのが目的であれば、「球根」はネット通販で容易に手に入り、栽培も難しくなく、さらにムカゴで増やせ、色合いもやさしい黄色なので、オウゴンオニユリは人気がある。
また、オウゴンオニユリは、種子ができるので、黄色のユリの交配親として有名だ。「羽後の光」「ひかり」「仁王」「デスティック・ハイブリッド」など数多くのユリを世に送り出している。
Ⓒ対馬全カタログ