2021年4月2日更新
斜め下に向かって伸びるオニユリ
オニユリ
【ユリ科・ユリ属】
種子ができるオニユリは
対馬だけ。だからこそ
オウゴンオニユリも生まれた
対馬のオニユリは、種子ができる2倍体
対馬のオニユリの最大の特徴は、種子ができるということ。対馬以外のオニユリは、ムカゴか球根でしか増殖させることができない。それは、対馬のオニユリは“2倍体”なのに対して、他は“3倍体”だからだ。(場所を特定できる情報はないが、九州北部にも2倍体のオニユリが自生しているという。)
通常、生物は母親と父親から 染色体を一組ずつもらい二組の染色体をもち、これを“2倍体”と呼ぶ。これによって生殖による増殖が可能となり、進化や突然変異も可能になる。
“3倍体”の場合は、染色体が3組あり、成長はしても生殖できる成熟したオスやメスにはなれない。植物の場合は種子ができず、メシベやオシベによる増殖が不可能だ。
日本のオニユリは、なぜか対馬以外はすべて3倍体ということがわかっている。かつて漢方原料や食用として輸入されたオニユリが、すべて3倍体だったということだろう。3倍体はムカゴや球根では増やせるが、それは同じ染色体をもつ個体を増やすだけ。つまりクローンと同じと考えていいそうだ。
見た目は“2倍体”も“3倍体”も変わらない(フリー素材より)
対馬では、2倍体:3倍体=3:1
調査によると、対馬のオニユリは、2倍体の個体が約75%、3倍体のものが約25%らしい。3倍体が少なく、2倍体が多い。さらに人為的に持ち込む理由のない無人島にもオニユリが多く繁殖していることから、対馬のオニユリは海外から持ち込まれたものではなく、もとから自生していたと考えている研究者もいるそうだ。
オニユリに種子ができる対馬では、突然変異でできたと思われる八重咲きオニユリ、斑点のないオニユリ、黄色のオニユリ等が発見されている。特に黄色のオニユリはオウゴンオニユリと命名され、発見地において大切に栽培が続けられている。
写真:國分英俊氏
花期は7月~8月
オニユリの原産地は中国。グアム東部、中国、朝鮮半島、日本に自生する。日本では北海道から九州の平地から低山で普通に見られ、中国からの渡来種と言われている。
草丈は1~2mにもなる大型のユリで、 先端が尖った葉っぱの間から長い茎を伸ばし、先端に花を下向きに咲かせる。花期は7月~8月。花はオレンジ色で、大きさは10cm程度。花びらには褐色の斑点が無数にあり、後ろ向きに反り返っているのが特徴だ。花の姿が赤鬼を思わせることから「鬼百合」と命名されたことは想像できる
写真:國分英俊氏
観賞用として最適なオニユリ
園芸文化が花開いたといわれる江戸時代には、オニユリも鉢植えの観賞用として栽培されていたそうだ。野生のユリはウイルス耐性が弱くて球根をダメにすることが多いが、オニユリはウイルス耐性があり性質も強いので、庭植えなど園芸にもよく利用されてきた。
また、対馬の2倍体のオニユリから、八重咲きオニユリが生まれ、園芸用として重宝され始めたのも江戸時代だ。その他にも対馬のオニユリをもとにした園芸品種が多くある。
エレガントオニユリ(左)と八重咲きオニユリ (フリー素材より)
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