2021年4月6日更新
全写真:川口誠氏
ツシマヒミズ
【 食虫目・モグラ科 】
モグラそっくりに見えるけど、
モグラじゃない。それはヒミズ。
そしてこれが、ツシマヒミズ
ヒミズは「日見ず」。つまり、太陽を見ない
一般人があまり耳にすることのない動物名だが、「ヒミズ」は日本の固有種で、簡単に説明すると、モグラより一回り小さく、トンネル掘りがあまり得意ではないモグラの仲間、ということになる。
本州・四国・九州のほか、隠岐島や五島列島などに分布し、ツシマヒミズはその亜種で対馬だけに生息する。
暗くなると地上を歩き、日がさし出すと地下に戻る、半地下生活をおくる。「日不見」「日見ず」という和名もここに由来する。
見た目はモグラだが、少し違う
ヒミズは、モグラと同じように目は退化しているが、 ほとんど地下生活のモグラと違い、土を掘るための大きな手のひらや強い爪がない。だから、土が柔らかいところ、例えば落ち葉の下や腐植土の中にすみ、 モグラやネズミが掘ったトンネルを利用することも多いという。モグラより一回り小さいので、その辺は好都合だろう。
また、ヒミズの体色は黒から黒褐色で、モグラに比べて尻尾は太くて長く、体毛よりも長い0.5~1.5cm程度の長い毛がまばらに生えている。尻尾の長さは体長の1/3ほどもあり、ツシマヒミズはさらにそれよりも少し長い(ヒムズは体長の32~34%、ツシマヒミズは37%)。
体長8〜10cm、尾3〜4cm。体毛は黒色から黒褐色でビロード状。こん棒状の尾には6〜16mmの長毛がまばらに生えている。
ミミズは必ず頭から
ほとんど肉食のモグラとは違い、ヒミズは雑食性。ミミズやクモ、ムカデ、昆虫類、それに種子などを、鋭くとがった門歯をうまく使いながらバリバリ食べるそうだ。
ヒミズの面白い特徴としてあげられるのが、ミミズを食べる時は、頭から食べるということ。これはミミズの頭を識別できる能力があるということだ。モグラも頭から食べるが、モグラの場合は食餌途中で頭からに変更する場合も多く、頭を感知する能力はヒミズの方が上ということらしい。
なぜ、ミミズは頭から食べるのか。その理由は、ヒミズがミミズを食べるには時間がかかり、尾から食べ始めると食餌途中に逃げられてしまうから、それを遺伝的に理解しているからではないかと考えられている。モグラは食べるのが速く、逃げられることを気にしなくていいから、「頭から」にこだわる必要性が弱いのではないか、と。
モグラやヒミズだけがもつ、アイマー器官
モグラやヒミズの吻(ふん:口先)の先端部には、アイマー器官と呼ばれる微細なつづみ型の器官が、表面は丸いタイルを敷き詰めたように多数密集しており、そのひとつ一つに多数の神経細胞がつながっている。この器官が触覚刺激を敏感に感知しているのではないかと考えられている。
ここから送られてくる性質の違う神経刺激を組み合わせることによって、餌などの対象物から得られる複雑な情報を知覚していると考えられており、ミミズの頭を識別するのもこのアイマー器官と考えられている。
アイマー器官を構成する細胞に、メルケル細胞、被包小体があるが、これらはヒト、イヌ、ネズミなど多くの哺乳類の口腔や指先などにもあり、触覚細胞を構成している、しかしそれらが整然と配置されているアイマー器官は、モグラ科の吻のみに発見されているという。
ここが吻(ふん)。この先端にアイマー器官がある
触れた獲物は逃さない、back-with-grip
トンネルの中で、内壁から体の一部が出ているミミズをアイマー器官が感知すると、ヒミズはすぐにそれに噛みつき、素早く後退するという捕獲行動を行う。それは「back-with-grip」と呼ばれ、ミミズの全身をトンネル内に迅速に引き込み、逃げられないようにするためといわれている。ヒミズでは普通 30~40 cm、時に 60 cm 以上も後退することがあるそうだ。
しかし、ヒミズのトンネルはモグラのものほど深さも長さもなく、トンネル内で頻繁にミミズや昆虫に出会うことは難しい。その場合は、夜、地表に出て餌を探すことになる。
ヒミズは(モグラも同様だが)、数時間食べないと死んでしまうと言われている。地上に出て餌を探していて、うまく見つけられなくて死んでしまったヒミズが、時々道ばたで発見されるそうだ。
モグラはほとんど地上に現れないので、地上で見つけた小さなモグラは、生死に関わらず、ほとんどがヒミズ、あるいはさらに小型のヒメヒミズと考えてよいそうだ。
ヒミズの分布と生息場所
ヒミズは、本州、四国、九州と隠岐島、五島列島に分布し、ホンシュウヒミズ、シコクヒミズ、キュウシュウヒミズ、オキヒミズと、島名を付加した名称もあるが、「基亜種」として同一種とされ、対馬に棲むツシマヒミズだけが亜種として分類されている(他説あり)。ツシマヒミズは、尾が少し長いのが最大の特徴だ。
主として低山域の森林に住み、特に湿潤な川岸や道沿いの茂み、薮などの、地面に落葉層が厚く発達した所、いわゆるミミズの多そうな所を好む。コケや草本に覆われた場所であれば,岩場や砂礫の多い所でも生息しているという。
ヒミズの繁殖は、1カ月刻み
ヒミズの繁殖期は年 1 回で、2 月中旬~ 5 月上旬までの期間に交尾を行ない、その最盛期は 3 月中旬と推定されている。秋に交尾を行う例も数少ないがあるそうだ。
出産は 3 月中旬から始まり、少数の個体は 6 月上旬まで出産を行ない、最盛期は 4 月中旬と推定される。交尾してからほぼ1カ月後だ。子供の数は 1 ~ 6 頭で、3 ~ 4 頭が全体の9割近くを占めるそうだ。
出産直後の赤ちゃんヒミズは極めて大きく、母獣の頭胴長の 25 %以上に達すると考えられている。そして、生後約 1カ月で成獣と同じ大きさになる。
モグラやヒミズの詳細、そしてセンカクモグラ
ヒミズに関する情報の多くは、富山大学理学部生物圏環境科学科野生動物保全学研究室(横畑研究室)のホームページからいただいている。
モグラやヒミズの生態に関しては、1998年発行の『食虫類の自然史』から一部をホームページに掲載、公開されたものを参考にさせていただいた。
アイマー器官の図などもあり、より詳しく解説されているので、参照していただきたい。
また、横畑研究室では、2003年から尖閣諸島魚釣島に生息するセンカクモグラの保護を訴える活動を推進してきたが、中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めることで外交問題化し、活動は一時的な休止を余儀なくされている。センカクモグラの生存を願うとともに、今後の活動に期待したい。
自然・生物多様性保護・・センカクモグラを守る会
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