対馬全カタログ「生き物」
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2021年4月1日更新
全写真:國分英俊氏
ヒゴタイ
【キク科・ヒゴタイ属】
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花の名前は由来不明。
その球形は花の集合体で
対馬では上県町に自生
球形なのに、「平 江 帯」とは?
 ピンポン玉かゴルフボールのように丸い花は、実は小さな花の集合体で、頭花という。熊本県阿蘇地方に多く自生し、だから「肥後・・」なのかと思えば、そうでもないらしい。
  江戸時代中期に出された貝原益軒編纂の植物大事典ともいうべき大著『大和本草』(1709年)に初めて登場。そこでは「平江帯(ひんこうたい),花るり色なり,葉は敗醤(おみなえし)に似たり」と記されている。球形なのに、「平」と「帯」の字が入っているのが、ちょっと不思議な感じがする。
 また、『肥後細川家写生帖』(1700年代中頃)には「肥後躰」と表記されているが、おそらく「ひんこうたい」の「ひんこう」を「肥後」に置き換えたのだろう。いずれにしても名前の由来は不明らしい。
 ヒゴタイはキク科ヒゴタイ属の多年生草本で、その仲間は世界に120種ほどあるそうだ。日本での自生はまれで、本州(愛知県、岐阜県、岡山県、広島県)、四国、九州などの山野に局所的に分布。また、中国、モンゴル、ロシアにも生育しているという。ユーラシア大陸と九州が陸続きだった昔に分布した遺存(残在)植物とも言われている。
なんとも不思議な世界だ
対馬自生種の花は、薄紫色
 ヒゴタイの学名Echinops setiferは、「ハリネズミに似ている」というような意味らしい。高さは30cmから長いものでは1mを越すものも。日の当たる原野に生え、多くはススキやネザサなどの草丈の高い草原に点在しているそうだ。
 茎は太く直立。くも毛を密生して白い色を帯び、上部で枝を分け、先端に頭花をつける。葉はアザミに似て羽状に切りこみがあり、縁には短いトゲが生えている。葉の裏面には茎と同じくも毛が生え、白くなっている。
 花期は8月~9月で、芽を出してから2年目以降に花が咲くと言われている。頭花の大きさは直径約5cmのきれいな球形で、先端が細い5弁に分かれた筒状花がたくさん集まり頭花を形成している。花の色は美しい瑠璃色と言われているが、対馬では白っぽい花が多いらしい。つまり、薄紫色だ。
対馬のヒゴタイは薄紫色
花に接近すると、小花は管状花で、深く5裂し、裂片は反り返っているのが確認できる
絶滅危惧種に指定される
 九州ではかつては草原に普通に見られ、盆花にされていたそうだが、生育地の開発や乱獲により減少し、今や絶滅危惧種。環境省レッドデータブックでは 絶滅危惧種ⅠB類(EN)だ。鹿児島県、宮崎県ではすでに既に絶滅。大分県では絶滅の危険性が増大している絶滅危惧種Ⅱ類だが、熊本県、福岡県、佐賀県、長崎県では、近い将来に絶滅の可能性が高い絶滅危惧種Ⅰ類に指定されている。
 対馬での分布は上県町のみに限られるそうだが、最近その数も激減し、絶滅寸前だそうだ。
 草地などでヒゴタイを見つけても、触れず、写真を撮るだけにして、そのまま自然の状態で残すように心掛けたいものだ。
紫色が濃い本土のヒゴタイ    (ネットフリー素材)
ヒゴタイが見たければ、熊本県のヒゴタイ公園へ
 対馬でヒゴタイにお目にかかるのはなかなか難しい。もし実物のヒゴタイの花を観察したいと望むなら、熊本県阿蘇郡産山村の「ヒゴタイ公園」を訪ねてみてはどうだろう。
 ちなみに、ヒゴタイは熊本県産山村の村花で、産山村には「ヒゴタイ公園」のほかに「ヒゴタイ公園キャンプ村」もある。
 また、 大分県玖珠郡九重町田野のタデ原湿原でも、ヒゴタイを観察することは可能だ。
ヒゴタイ公園(熊本県産山村) (ヒゴタイ公園HPより)
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