2021年4月1日更新
全写真:國分英俊氏
ハクウンキスゲ
【ススキノキ科・ワスレグサ属】
対馬の夏を代表する花、
ハクウンキスゲだが
現在、自生地が減少中
チョウセンキスゲから、ハクウンキスゲに
対馬には大陸との共通種で、日本ではこの島だけに自生しているという植物がいくつかある。毎年、初夏になると黄色い花を咲かせるハクウンキスゲもそのひとつだ。
この花は、1980年頃まではチョウセンキスゲか、あるいはトウカンゾウの野生型ではないかと考えられていた。しかし、チョウセンキスゲが夕方に咲いて翌日の午後まで咲き続ける「夜昼咲き」であるのに比べ、このキスゲは朝に咲き、夕方には閉花する「昼咲き」の1日花。つまり、チョウセンキスゲとは考えにくい。
また、花期がトウカンゾウより1カ月も遅く、トウカンゾウの花被片によく見られる褐色の山形斑が稀であり、トウカンゾウと考えにくいことから、朝鮮半島南部に自生するハクウンキスゲと同種と同定され、一件落着となった。
豆酘崎の群生地
かつてはユリ科だったが、ススキノキ科に
毎年6月の終わりから8月にかけて、西海岸の日当たりのよい崖地に黄橙色の花を咲かせるハクウンキスゲ。かつての形態中心の分類であるクロンキスト体系では「ユリ科ワスレグサ属」だったが、ゲノムによる最新の分類体系APGⅢでは、「ススキノキ科キスゲ亜科ワスレグサ属」ということになった。
「ススキノキ」は、Wikipediaによると、オーストラリアを原産とするススキのような細い葉をつける草だが、見た目はキスゲからは程遠い植物だ。実感としてはユリ科だが、致し方ない。学名は、Hemerocallis hakuunensis。Hemerocallisとは、ワスレグサのことだ。
ハクウンキスゲは、6月の終わり頃から8月にかけて花が咲く。何年も生き、季節になれば黄橙色の花を楽しませてくれる多年草だ。高さは50~100cm。海岸付近の日がよく当たる草地を好み、対馬と朝鮮半島南部に自生する。
花びらの色はオレンジ色と黄色の中間色
かつては対馬全島の海岸近くに自生
対馬の海や空の青色と、花弁の鮮やかな黄色とのコントラストが印象的なハクウンキスゲ。かつては対馬のあちこちで群落を見ることができたが、近年、群落数は減少傾向にあり、断崖など人の手の届かない場所でしか見られなくなり、現在では西海岸の数か所でしか見ることができないそうだ。
その主原因は、鹿による自然環境の荒廃。頭数が増えすぎて野草が食べ尽くされるエリアが広がっている。
厳原町豆殻崎の断崖に生える群落は、海の青とのコントラストも素晴らしく、ハクウンキスゲの名所となっていたが、一時、鹿に食べ尽くされてしまった。
2006年6月(豆酘崎)
2015年3月 写真を撮った角度は少し違うが、同じ場所
獣害のない浅茅湾の無人島・明礬島(みょうばんじま)に咲くハクウンキスゲ。夕日を浴びてオレンジ色が濃い
(写真:日高)
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