対馬を彩る春の花といえば、もちろん桜もきれいだが、景色としては断然ゲンカイツツジだ。浅茅湾の渡海船が定期便として活躍していた頃は、渡海船から眺める海岸の岩場に咲くゲンカイツツジは春の定番風景だった。しかし、渡海船の利用が減り、定期運行が減り、漁師以外がその景色を楽しむ機会は少なくなった。
ゲンカイツツジが咲くのは、岡山県以西の本州、九州北部、対馬、朝鮮半島南部、済州島。壱岐と福岡の真ん中あたりにコンパスの中心を置き、ぐるーっと円を描いて、それに広島県と岡山県を加えれば、だいたいそれが分布エリアとなる。その円の中心が玄界灘だから、ゲンカイツツジというらしい。
そのゲンカイツツジが、いつの頃からか減ってきているという。原因は、林業衰退によって山の手入れが行き届かなくなり自生地に陽が当たらなくなったこと。そしてシカやイノシシの獣害も考えられるそうだ。
そのことに危機感をもった島内外の有志が2002年(平成15年)に立ち上げたのが、ボランティアグループ「玄海つつじの森つくろう会」。会員が自宅で種から育て、毎年2000本~2500本の苗木を持ち寄って、美津島町のあそうベイパーク内の山5ヘクタールに植樹している。ゲンカイツツジをメインに コバノミツバツツジ、チョウセンヤマツツジなども植え、長い期間ツツジを楽しめるように工夫しているそうだ。現在2万7000本のツツジが春になると花を咲かせ、多くの人が花見に訪れるという。
ゲンカイツツジが対馬市の「市の花」に認定されたのは、その活動開始から2年後。ゲンカイツツジを守ろうとする市民の意識も、さらに高まったに違いない。